ECMを自作回路で使う場合のメモです。
音圧はたいていdB表記されるので、とりあえずdBについて簡単に説明します。
もともと、比の対数をとるbelという単位があって、それに1/10を示すdeciがつ
いたものがdBです。
ですので、入力が
[W]、出力が
[W]の回路であれば、利得
[dB]との関係は次のように書けます。
一般に、エネルギーの比をdBで書くため、電圧の比を用いる場合は次のように
係数が10から20に替わります。
上記のように、dBは単に比を表しているだけですが、音圧をdBで書く場合は、
[Pa]との比のことになります。
ですので、音圧
[dB]と
[Pa]の変換は次のようになります。
音圧と実際の音との関係は、以下の表ぐらいだと言われています。
音圧[dB] | 音源 |
---|---|
100 | ディスコの中、電車が通過中のガード下 |
90 | カラオケBox、オートバイ |
80 | 電車の車内、繁華街の交差点、セミの鳴き声 |
70 | 自動車の車内、騒々しい街頭 |
60 | レストラン、通常の会話 |
50 | 事務所内 |
40 | 図書館 |
30 | 静かな室内、ささやき声 |
10 | 木の葉が揺れる音 |
ECMのdatasheetを読んでみると、ECMの感度もdBで表記されています。この場合 のdBは、V/Paを対数表示したものです。言い換えると、1[Pa]の音圧がECMにか かったときに、1[V]の電圧を出力するECMが感度0[dB]です。
以上のことから、
[dB]の音圧が感度
[dB]のECMに入力されたときの出力電圧を
[V]とすると、次のようになります。
一般に流通しているECMの感度は、-40[dB]から-50[dB]ぐらいです。そこそこう るさいと感じる音圧80[dB]を、感度-40[dB]のECMに入力した場合、上記の式か ら1[mV]の電圧が出力されます。この程度の電圧しか出てきませんので、ECMを 使う場合は増幅器が必須です。
前節で書いた圧力や出力電圧はRMS(Root Mean Square,二乗平均の平方根)です。
要はエネルギー平均です。式でちゃんと書くと次のようになります。
一方、回路を設計する上でp-p (Peak-to-Peak, 最大振幅)も重要な値です。 RMSは消費電力や発熱を求める際に使いますが、p-pは回路の最大入出力電圧を 決めるために必要です。
RMSとp-pの変換ですが、これは波形を仮定しないと変換できません。最も簡単
な正弦波の場合を例としてみます。
もう一つ、代表的な例として、入力がrandomな時を仮定して、電圧分布が次式
で書かれる正規分布になっている場合も計算してみます。
正規分布ですので、厳密に
を考えると
となってしまいますが、
区間を考えて
とすると、
となります。
前節のように、音圧から を求めて、そこから を推測したい場合、たいてい正規分布を仮定してやれば十分です。 前節では、[mV]でしたので、 [mV p-p]の入力電圧に対して歪まずに増幅できる回路を設計します。
録音する場合に、最も大きなノイズ源は風です。マイク屋さんは「吹かれ」と 言ったりするみたいです。屋外で録音する場合はもちろん、屋内でもマイクを 動かせば風を受けますし、人間の声を録音する場合には息とも闘わねばなりま せん。
まず最初に、風が録音にどの程度影響を与えるか求めてみましょう。流速
で流体が流れているときにできる圧力(動圧と言います)は、次のように
与えられます。詳しくは流体力学の教科書を参照してください。
は密度で、標準大気では高度0[m]の時に
[kg/m3]です。
例えば、風が4[m/s]〜6[m/s]の間で変動しているとしましょう(心地良い、そよ 風程度)。すると、風による動圧 は9.8[Pa]〜22[Pa]で変動します。音=圧力波として扱うのは交流成分だけ ですので、差の12[Pa p-p]が音圧に相当します。これをバカ正直にECMで拾って しまうと、感度が-40[dB]として120[mV p-p]の出力が出てきます。
前記したように、信号として得たい音は数[mV]程度ですので、ECMに風が当たる ような使い方をするとノイズしかとれない事が良く解ると思います。
ノイズ対策は入力になるべく近いところで行う、という鉄則に則って、まずは
ECMに風が当たらないようにしましょう。"風防"とか"Wind
screen"で探せばいろいろな物が見つかりますが、一番お手軽なのはスポ
ンジのカバーでしょう。厚くて大きい方が効果がありますが、代わりに周波数
特性が若干悪くなります。
また、室内で声を録音する場合は金魚すくい型のpop guardが良いみたいです。
基本的には、前節のように風が直接当たらない様にして使えば吹かれることは ほとんど無くなるはずです。ただ、車の屋根にmicを張り付けて走行音を録ると いったバカなことを始めると、wind screenだけでは厳しい場合も出てきます。
ビデオカメラの風音低減とかウインドカットと呼ばれる機能を参考にしてみま す。これらの機能はそれほど難しいことをしているわけではなく、単に入力に HPFを入れて低周波を捨ててしまうという結構単純で大胆なことをしているよう です。文献を漁ってみると、一次のHPFでCut off=100〜200[Hz]に設定してやれ ば良いようです。
自作回路に実装する場合、増幅後に歪んだ波形に対してHPFをかけても仕方ない ので、ECM→HPF→増幅器になるように構成します。
Condenser-micは「吹かれ」に弱いと言われます。ちょっと考えれば当然のこと なので簡単に説明します。
Dynamic-micは電磁誘導で振動を電気信号に変換しています。ですから、振動板 の速度に応じた出力が出てきます。低周波の音になるほど振動板の速度は遅く なるので、周波数が低くなれば感度が落ちます。この感度低下は、いろいろな Dynamic-micの特性を見てみると、だいたい100[Hz]付近から低周波側で顕著に 出ています。「吹かれ」は低周波数の圧力変動ですから、低周波で感度が落ち るDynamic-micの特性が吹かれに対するfilterの役割を果たしていると言えます。
一方、Condenser-micは静電容量で電気信号を取り出しますので、振動板の変位 に応じた出力が出ます。そのため、20[Hz]とかそれ以下の極低周波まできっち りと拾ってくれます。良く言えば、周波数特性が良いという事ですが、吹かれ たらちゃんとそれも拾ってしまいます。
自作回路でECMを使う場合も、この様な特性を良く考慮して設計する必要があり ます。